バック率は 1 つの数ではない ── 指名料・オプション・送迎で別々に決まる
「バック 60%」と言った時、何の 60% かが店ごとに違います。基本料金だけか、指名料も入るか、オプションは何割か、送迎費は誰が持つか。同じ 60% でも手取りが 1 万円変わります。4 つの層に分けた決め方と、キャストへの説明の仕方、計算式まで整理しました。
「うちはバック 60% です」
この 1 行では、キャストの手取りは決まりません。
60% が掛かるのは基本料金だけなのか。指名料にも掛かるのか。オプションは別の率なのか。送迎費は誰が持つのか。延長は。時間帯の加算は。
同じ「60%」と言っている 2 つの店で、キャストの手取りが 1 回あたり 8,000 円違うことがあります。率が同じで、掛ける先が違うからです。
要点
- バック率は 1 つの数ではなく、4 つの層それぞれに決まる数
- 4 つとは 基本料金 / 指名料 / オプション / 実費(送迎・講習・備品)
- 「バック 60%」だけを伝えると、キャストは基本料金以外も 60% だと読む
- 揉めるのは率の高さではなく、どこに掛かるかを言っていなかった時
- 実費の扱いは率ではなく 誰が持つかの問題。率の話に混ぜない
1 行で言うと
| 層 | 何に対する率か | 店ごとに割れやすい所 |
|---|---|---|
| 基本料金 | コースの本体価格 | ほぼ割れない(ここが「バック率」と呼ばれている) |
| 指名料 | 本指名・写真指名に付く額 | 全額キャスト / 折半 / 基本と同率 の 3 通り |
| オプション | 延長・追加サービス | 基本より高い率を置く店が多い |
| 実費 | 送迎・講習・備品・罰則 | 率ではなく、誰が持つかの話 |
**4 行目が、いちばん揉めます。**率の話だと思って聞いていたキャストが、引かれる額を見て初めて気づくためです。
なぜ 1 つの数で言えないのか
層ごとに、店の持ち出しが違う
基本料金には、店の家賃・広告・人件費が乗っています。指名料には、ほとんど乗っていません。オプションには、物によっては原価があります。送迎にはガソリン代とドライバーの時給が実際にかかります。
店の持ち出しが違うものに、同じ率を当てる理由がありません。
だから多くの店は、実際には層ごとに違う率で運用しています。言っていないだけです。
言わないと、キャストは「全部に 60%」と読む
これは読み違いではありません。「バック 60%」という言い方が、そう読ませています。
店が言ったこと …「バック 60%」
店が思っていたこと …「基本料金の 60%。指名料は折半。オプションは 50%。送迎は 1 回 500 円引く」
キャストが読んだこと…「入ってきた額の 60%」
1 回の来店で 基本 20,000 円 + 指名料 2,000 円 + オプション 5,000 円、送迎あり だったとします。
| キャストの読み | 店の運用 | |
|---|---|---|
| 基本 20,000 | 12,000 | 12,000 |
| 指名料 2,000 | 1,200 | 1,000 |
| オプション 5,000 | 3,000 | 2,500 |
| 送迎 | 0 | −500 |
| 手取り | 16,200 | 15,000 |
**差は 1,200 円です。**1 回なら流せます。月 40 本で 48,000 円になった時に、話が始まります。
4 つの層、それぞれの決め方
一 基本料金 ── ここが「バック率」と呼ばれている数
コース本体に対する率です。ここだけは店ごとの差が小さく、業態と地域の相場でおおよそ決まります。
**決める時に見るのは 1 つだけです。**その率で、店に何が残るか。
基本 20,000 円 / バック 60% の時
キャストへ 12,000
店へ 8,000
ここから出るもの …家賃・広告・受付の人件費・決済手数料・システム
**8,000 円から全部を出して残るか。**残らなければ、率ではなく単価か集客を変える話になります。率を下げて解こうとすると、キャストが先に居なくなります。
二 指名料 ── 3 通りに割れる
指名料は「そのキャストを選んだことへの対価」です。店の持ち出しはほとんどありません。だから扱いが割れます。
| やり方 | 中身 | 効きかた |
|---|---|---|
| 全額キャスト | 指名料 2,000 → キャスト 2,000 | 指名を取る動機がいちばん強い |
| 折半 | 指名料 2,000 → キャスト 1,000 | 中間。いちばん多い |
| 基本と同率 | 指名料 2,000 → キャスト 1,200 | 店の取り分は増えるが、動機は弱い |
指名を増やしたい店が、指名料を基本と同率にしているのは噛み合っていません。
指名は、キャストが自分の手で作った関係です。本指名がセラピスト側の資産であることは メンズエステの指名 ── 本指名・写真指名・フリーの違いと、店が決めること に書きました。その資産に対する取り分を薄くすると、キャストは「自分の客」を店の外へ持ち出す動機を持ちます。
三 オプション ── 基本より高く置く
延長・追加サービスは、キャストの手間が直接増えます。ここを基本と同率にすると、受けない方が得になります。
基本 60% / オプション 60% の時
キャストにとって オプションは「同じ率で、手間だけ増える物」
⇒ 積極的に すすめない
基本 60% / オプション 70-80% の時
⇒ すすめる動機が立つ
**オプションの率は、売上を伸ばしたい所へ置く数です。**率を一律にすると、伸ばしたい所が伸びません。
四 実費 ── これは率の話ではない
送迎費・講習費・備品代・罰則。これらは 率ではなく「誰が持つか」 の話です。率の説明に混ぜると、必ず後で揉めます。
| 項目 | よくある扱い | 揉めやすさ |
|---|---|---|
| 送迎 | 1 回 定額を引く / 店が全部持つ / 距離で変える | 高い |
| 講習 | 初回だけ引く / 引かない | 中 |
| 備品 | 実費を引く / 店が持つ | 低 |
| 罰則(遅刻・当日欠勤) | 定額を引く | いちばん高い |
罰則は、金額よりも 事前に文字で渡してあったかで揉め方が変わります。伝えただけで書いていない店は、引いた月に必ず問い返されます。
罰則の設計そのものについては 遅刻と当日欠勤を どう扱うか ── 罰金の前に 決めておく事 に書きました。
決めた後にやること ── 1 通に書いて渡す
率を決めても、伝わっていなければ決めていないのと同じです。
渡す書面に要るのは 4 行だけです。
基本料金 …○%
指名料 …○%(または 全額 / 折半)
オプション …○%
引かれるもの…送迎 1 回 ○円 / 講習 初回のみ ○円 / 遅刻 ○円
4 行目を書かない店が多く、そこが揉め所になります。
入店の日に渡す
入店の日に渡すのがいちばん安く済みます。1 か月後に説明すると、**キャストは「後から条件が変わった」と受け取ります。**実際には変わっていなくても、そう受け取られます。
体験入店の段階で渡す店もあります。条件の話が後になるほど、辞める側へ傾きます。辞める前に出るサインは キャストが辞める 3 週間前に出るサイン にまとめました。
計算式
1 回あたりの手取り
手取り = 基本料金 × R基本
+ 指名料 × R指名
+ オプション × Rオプ
− 実費(送迎 + 講習 + 罰則)
実効バック率 ── キャストが体感している率
キャストが「うちは何%か」と感じているのは、次の数です。
実効バック率 = 手取り ÷ お客様が払った総額
先ほどの例で計算します。
お客様が払った総額 …20,000 + 2,000 + 5,000 = 27,000
手取り …15,000
実効バック率 …15,000 ÷ 27,000 = 55.6%
店は「60%」と言い、キャストは 55.6% を受け取っています。
この 4.4 ポイントの差が、説明していない層と実費から出ています。**差そのものが悪いのではありません。**差があることを言っていないのが、後で効きます。
店に残る額
店の粗利 = お客様が払った総額 − 手取り − 実際にかかった実費
送迎を「1 回 500 円」で引いていても、実際のガソリン代とドライバー時給が 1 回 1,200 円なら、**店は 700 円を持ち出しています。**引いている額と、かかっている額は別です。
送迎の実コストの数え方は ドライバーの原価を「1 本いくら」で見ていると、人を減らす方へ効きます に書きました。
業態で 何が変わるか
4 つの層という形は 業態が変わっても同じですが、どの層が重いかが変わります。
| 業態 | いちばん重い層 | 理由 |
|---|---|---|
| メンズエステ | 指名料 | 指名がそのまま売上の芯。写真指名と本指名で扱いを分ける店も在る |
| デリヘル | 実費(送迎) | 1 本ごとに移動が発生する。距離で変わるため定額と実額がずれやすい |
| キャバクラ | 基本(時給との併用) | 時給 + 歩合の二本立てで、率だけでは手取りが決まらない |
| ホスト | オプション(ボトル) | 客単価の振れ幅が大きく、率の差が額の差になりやすい |
時給と歩合を 併せて持つ時
キャバクラでよく見る形です。この時「バック率」は手取りの一部しか説明しません。
手取り = 時給 × 時間 + (売上 × 歩合率)
− 実費
⚠️ 時給が保証なのか、歩合との どちらか高い方なのかで 意味が全く違う
| 形 | 中身 | キャストから見た安心 |
|---|---|---|
| 併給 | 時給 + 歩合 を 両方 | 高い。店の負担も高い |
| 高い方 | 時給と歩合の どちらか高い方 | 中。売れない日も下限が在る |
| 歩合のみ | 時給 0 | 低い。売れる人には有利 |
「時給 2,000 円 + バック」と言った時、併給なのか高い方なのかを 言っていない店が多いです。ここも 4 行の書面に書きます。
率の相場を どう見るか
「相場はいくらか」という問いには、数だけで答えると外します。
同じ 60% でも、基本のみに掛かる 60% と 総額に掛かる 60% は別の水準です。相場を見る時は、必ず 実効バック率に直してから比べます。
A 店 …「バック 65%」(基本のみ / 指名料 折半 / 送迎 800 円引き)
B 店 …「バック 55%」(総額に 一律 / 引くもの 無し)
基本 20,000 + 指名 2,000 + 送迎ありの 1 本で比べると
A …13,000 + 1,000 − 800 = 13,200 ⇒ 実効 60.0%
B …22,000 × 0.55 = 12,100 ⇒ 実効 55.0%
表に出ている数字の大きい A が、実際にも高いという例です。ただし送迎が 2 回付く日や、指名が付かない日には順が入れ替わります。
面接で聞かれた時に 答えられるか
キャストは他店と比べています。「うちは 60% です」としか言えない店は、実効で負けていても気づけません。
自店の実効バック率は、先月の精算から出せます。
先月の 手取り合計 ÷ 先月の お客様が払った総額
この 1 つの数を 月に 1 回出しておくと、面接でも運用でも使えます。
罰則を 引く時に 気をつける所
罰則は 4 つの層のうち 実費に入りますが、**他の 3 つと性質が違います。**取り分の話ではなく、約束を守らなかった時の扱いだからです。
⭕ 事前に 文字で 渡してある / 金額が 決まっている / 何をしたら 当たるかが 書いてある
🔴 その場で 決める / 人によって 額が 違う / 伝えただけで 書いていない
⚠️ 罰則の上限や適法性については、契約の形(雇用か業務委託か)によって扱いが変わります。 ここは店ごとの判断ではなく、顧問の先生にご確認いただく所です。この記事では触れません。
運用として言えるのは 1 つだけです。**引く前に、渡してあった書面と同じ額を引く。**書面に無い額を引いた月に、話が始まります。
立替が 混ざると 分からなくなる
実費と似て非なるものに 立替があります。キャストが先に払い、後で店が返すものです。
実費 …店が キャストから 引くもの(送迎・講習)
立替 …キャストが 先に 払い、店が 返すもの(備品の買い足し・交通費)
**この 2 つを同じ欄で持つと、符号が逆のものが 1 つの列に並びます。**月末に必ず合わなくなります。
溜まり方については 立替が 精算されないまま 溜まる ── 誰も 悪くないのに 効いてくる 4 つ に書きました。
月に 1 回 出しておく 3 つの数
率を決めたら、決めっぱなしにしないための数を 3 つ持ちます。
| 数 | 出し方 | 何が見える |
|---|---|---|
| 実効バック率 | 手取り合計 ÷ 総額 | 言っている率との差 |
| 層別の構成比 | 基本 / 指名 / オプション の 売上比 | どの層を伸ばすと効くか |
| 実費の持ち出し | 引いた額 − 実際にかかった額 | 送迎で いくら 持ち出しているか |
3 つ目がマイナスなら、引いている額が実際より少ないということです。それ自体は悪くありません。知らずにそうなっているのが問題です。
よくある詰まり所
「率を上げてほしい」と言われた時
率の話に見えて、実効バック率の話であることが多いです。
基本の率を上げる前に、まず実効バック率を出します。そのうえで、どの層で差が出ているかを一緒に見ます。オプションの率を上げる方が、店の負担が軽くて効きが強いことがよくあります。
途中で率を変える時
下げる変更は、既存キャストに当てないのが安全です。
新しく入る人から新しい率にして、既存は据え置く。二層で持つことになりますが、下げた月に辞める人数の方が高くつきます。
人によって率が違う時
歴・指名本数・出勤数で率を変えている店があります。それ自体は問題ありませんが、基準を文字にしていないと「あの人だけ高い」という話になります。
⭕ 月 30 本以上の本指名で +5%(文字にしてある)
🔴 頑張っている人は上げている(文字にしていない)
日払いと月締めで率が違う時
日払いに手数料を乗せている店があります。これも 率ではなく実費の扱いです。4 行目に書きます。
日払いそのものをやめられるかどうかは、率ではなく締めと支払日の設計の話です。日払いをやめられない店の共通点 ── 締めと支払日の設計 に分けて書きました。
数えられる形にしておく
層ごとに率が違うと、手で計算すると必ず合わなくなります。
キャストが自分で確かめられない精算は、月末に問い合わせが来ます。問い合わせが来る前提で作るのではなく、キャストの画面から自分の内訳が見える形にしておくと、そもそも問い合わせが立ちません。
tasteck では、コース・指名料・オプション・実費を別々に持ち、キャストモバイルから本人が内訳を見られます。層ごとの率を店ごとに設定できるのは、現場が実際に層で分けて運用しているからです。
決める時に 1 回だけ やること ── 逆から計算する
率を先に決めると、後から「残らない」ことに気づきます。順を逆にします。
一 1 本あたり 店に いくら 残ってほしいか を 先に 置く
二 そこから 固定費(家賃・広告・受付・システム)を 1 本あたりへ 割る
三 残った分が 率の 上限
1 本あたりの固定費を 出す
月の固定費 ÷ 月の本数 = 1 本あたりの固定費
例 …月 120 万円 ÷ 月 600 本 = 2,000 円/本
基本 20,000 円のコースで、1 本あたり 2,000 円の固定費と、店に残したい 3,000 円が在るなら、
20,000 − 2,000 − 3,000 = 15,000 ⇒ 率の上限は 75%
上限が 75% と分かってから 60% を選ぶのと、何も見ずに 60% にするのは 別の作業です。
⚠️ この式は 基本料金の層だけの話です。指名料とオプションは 固定費がほとんど乗らないため、**別に決めます。**そこが 4 層に分ける理由でもあります。
本数が変わると 上限も変わる
固定費は本数で割るので、本数が増えると 1 本あたりが下がり、率の上限が上がります。
| 月の本数 | 1 本あたりの固定費 | 率の上限(基本 20,000・店に 3,000 残す) |
|---|---|---|
| 300 本 | 4,000 円 | 65% |
| 600 本 | 2,000 円 | 75% |
| 900 本 | 1,333 円 | 78% |
**「人が増えたら率を上げる」は、感覚ではなく式で説明できます。**上の表をキャストに見せている店もあります。
変える時の 伝え方
率を変える場面は 3 つしかありません。それぞれ伝え方が違います。
| 場面 | 伝え方 | やってはいけないこと |
|---|---|---|
| 上げる | 全員へ 同時に。理由も添える | 一部にだけ 黙って上げる |
| 下げる | 新規からのみ。既存は据え置き | 既存へ 遡って当てる |
| 層を分ける | 現状の手取りと 並べて見せる | 新しい表だけ 渡す |
「層を分ける」がいちばん難しい
いままで「一律 60%」だった店が 4 層に分ける時、**キャストには「下げられた」と見えます。**総額が同じでも、表が細かくなると そう見えます。
⭕ 先月の あなたの実績で 新旧を 並べた書面を 渡す
🔴 新しい率の表だけ 渡す
**先月の実績で並べれば、下がる人と上がる人が その場で分かります。**下がる人が出るなら、その人にだけ 差額を当てる調整を先に決めておきます。
現場からよく出る 4 つの問い
「指名が付かない日は どうなるのか」
基本の率だけが掛かります。指名料の層が 0 になるだけで、他は変わりません。
これを言っておかないと、指名が付かなかった日の手取りを見て「率が下げられた」と読まれます。
「オプションを すすめたら お客様が減らないか」
率の設計とは別の話です。ただし、オプションの率を上げると すすめる回数が増えるのは確かなので、何をすすめてよいかの線は 別に決めておきます。
「他店より低いと 言われた」
実効バック率で比べます。**言われた数字が 総額に対する率なのか、基本に対する率なのかを 先に聞きます。**同じ土俵でないまま比べても、話が進みません。
「途中で 率が変わったと 言われた」
変えていないなら、**入店の日に渡した書面を出します。**渡していなければ、この場面で出すものが在りません。だから入店の日に渡します。
4 行の書面を そのまま使う
最後に、そのまま写して使える形を置いておきます。
────────────────────────
お給料の決まり(○○様)
○年○月○日 お渡し
一 基本料金 …○%
二 指名料 …○%(本指名 / 写真指名 とも同じ)
三 オプション …○%
四 引かれるもの
送迎 …1 回 ○円(○km を超えた分は ○円)
講習 …初回のみ ○円
遅刻 …○分を超えた時 ○円
当日欠勤 …○円
※ 締め …毎月○日 / お支払い …翌月○日
※ 変える時は 1 か月前に お伝えします
────────────────────────
最後の 1 行が効きます。「変える時は先に言う」と書いてあるだけで、変えていない月の問い返しが減ります。
まとめ
- 「バック 60%」は 4 つの層のうち、基本料金 1 つのことを指している
- 言わなければ、キャストは 総額の 60% と読む
- 揉めるのは率の高さではなく、どこに掛かるかを言っていなかった時
- 実費は率の話に混ぜない。誰が持つかを 4 行目に書く
- キャストが体感しているのは 実効バック率 = 手取り ÷ 総額
- 入店の日に 4 行を書面で渡すのが、いちばん安く済む
**率を決めることと、伝えることは別の作業です。**決めただけで止めている店が、いちばん多くの時間を後から使っています。